サプライズ

女性はサプライズされたい生き物だと聞く。
ケーキの中に指輪を仕込んだり、シャンパンの底に沈めておいたりを初めてした人間こそ私なのだが、今となってはもはや古典的である。「ベトベトして嫌だ」と言われたこともある。納豆の中に仕込んだ時は即日フラれた。お笑い好きな娘だったのに。
今年は三人の女性にプロポーズしようと思っていて、給料九ヶ月分を支払い、指輪の用意はできたのだが、渡し方が全く思い浮かばない。
さて、どうしたものか。
バスの運転をしながら困っていると、一人の女性が停留所に立っていた。
辺りはすでに真っ暗である。
女性は後ろの方へ行き、座った。
限界集落を抜ける最終バスは、今日のように一人客も珍しくない。無人の日もしょっちゅうある。
アクセルを踏み込み、スピードを上げて信号無視する。その行為はどこだかの記事で見たことあるので、女性はサプライズドゥしないであろう。
女性がボタンを押しても停まらない。ありきたり過ぎる。

しばらくすると、停留所に男の人が立っていた。男を無視して走り去る…だからあ、暴走行為は先例があるし、女性客は下を向いているので、男の存在に気付いていない可能性も高い。
私は素直に停留所に停まり、男を乗せた。男は運転席の真後ろに座った。
バスは今、農道を走っている。長い直線が続くので、いきなり運転席を外しても大丈夫かな。
そういえば、今朝、バスの点検作業をした笹塚さんが、「今日は気を付けてね」と言ってたな。いつもは、「今日も気を付けてね」というはずだが。含み笑いしてたし。
まさか!  時速50マイル以下になるとバス爆発する爆弾を仕掛けたのかっ!?
いや、2回も停留所で止まっているし。笹塚さんは冷めている人だから、気の利いたサプライズを用意してくれる人ではない。トホホ。

「すいません、最近ビックリした出来事ってないですかね?」
私は、真後ろの男に小声で話し掛けた。
「ビックリ……ですか?…う~ん……ないですねえ。でも、なんで?」
「実は、後ろに居る女性客をサプライズさせたいのですが、何か良いアイデアありませんかね?」
「えっ!  後ろの女性客!?  何を言ってるんですかっ!!」
「すいません、変な相談を持ち掛けてしまって」
「そうですよ。乗客は僕だけじゃないですか」


Oh! サプライズ!!!