古都にビジネスチャンス有り

京都の洋食屋は美味い。
なぜなら、和食の御店なら不味くても、一見さん外国人観光客が「オウ!ジャパニーズフードネ!」とひっきりなしに訪問する。
特に外国人は、予定を立てる事に対して面倒臭がりなので、行き当たりばったりで和食屋へ飛び込む。歩くのが嫌いで、すぐに「トオイ!」と苛ちになり、視界に入った和食屋で済ます旅人が意外と多い。
だから和食屋は、不味くてもやっていける。
ところが、洋食となれば、外国客からすれば自国に無数にある食種なので、わざわざ日本で食べない。日本人観光客すらも、京都には古都、和文化、和食、和菓子、大和撫子、舞妓はんを求める。
ゆえに、京都では、本当に美味しくなければ、洋食屋はソッコーで潰れる。

以上のセオリを、場末で知り合ったフリーのツアーコンダクターから極秘入手する以前まで、私は、和だらけの京都で洋を売れば、少ない洋が目立つので、大した洋でなくても売れるだろうと、180度レヴェルで勘違いしていた。
その勘違いのせいで、セブンイレブン限定商品であるセブンゴールドの金の●●シリーズなる洋食レトルトを大量入荷し、それらをマイクロ波オーブンで加熱処理した後に品袋を割き、先々代から付き合いのある高級老舗旅館”鵜屋羽ゑ(うやばえ)”でくすねた清水焼の陶器へ移し変え、デミグラスハンバーグひと皿三千五百円辺りで提供して利ざやを取得するフードビジネスを展開しようと目論み、下準備までしてしまっていた。
ところが、冒頭で語った京都洋食に於ける内実情報を知ってしまった以上、已む無く事業の取り止めに踏み切りざるを得ない状況になってしまった。向こう幾年は、毎食ハンバーグ生活を余儀なくされる。
また、大量の皿が残ったのだが、今更もちろん本館に返却することも出来ず、毎月二十五日催しは”北野天満宮の骨董市”にて、密かに転売することとした。しかし、この骨董市というのが、一般人が飛び込みで露店を出すことの出来ない場であるというのが常識らしい。誰でも参加できる普通のフリマとは異なるのだ。
以前、骨董市に客として訪問した際に、千円で2着の古着物を購入し、千円で1本の古帯を購入したが、帰りに更に良い色合いの帯を見付けたので、既に購入した帯を返品しに戻ったら、白髪短髪の店主に塩をぶっかけられた。その夜、宿で店主の奇行を愚痴ってたら、「骨董市で返品て、そりゃキミが非常識だよ」と、宿主に指摘された。
なかなか難しい場所だ。骨董市での新参は難っぽいし、別にここで売らなくても、千本中立売に行って、通りで勝手に売っちゃえば良いじゃんとPOPな販売ルートが閃いた。しかし、皿の相場が分からないので、北野天満宮を訪問し、陶器を並べているオッチャンに聞いてみた。
「この皿、高値で幾らだと売れますか?」
「そりゃ、ニイちゃん、簡単には教えられへんわ」
私がそうですかと言って帰ろうとすると、
「ちょい待ちニイちゃん。こんなええの仕入れるには裏ルート使ったやろ。ホンマのことマッポにタレコミされたあなかったら、何も言いへんと全部ここに置いていき」
と、蛇に睨まれたもんだから、一気にトードの魔法にかかってしまった私は、古池に飛び込む他なかった。

後日、オッチャンが露天に並べた皿が盗品と私服警官にバレ、出所の私も捕まった。ついでに、血の日曜日事件と壬申の乱の主犯という余罪がバレ、まあ、蒙古襲来の際には雨乞いをして嵐を起こして蒙古を撤退させたのは何を隠そう私なのだが、その功績を差し引いても懲役579年。
現在、アルカトラズという獄中で手記を綴っている次第である。塀の外に、強烈なワイハイを使用している者が居るようで、おかげで当記事をブログにアップすることができている。

ちなみに、レトルトハンバーグの調理法を語った際に記述した”マイクロ波オーブン”とは、電磁波(電波)により水分を含んだ食品などを加熱出来るというなかなか優れた利器のこと。
最後にチンと鳴る。このことから、「チンする」という俗語が産まれた。
なんと卑猥な言葉であろうか。花も恥らう乙女達が「チンしよっか♪」と口にする日常をもたらしたのである。「バイブしとかなくちゃ」を日常化した携帯会社に等しい功罪である。
嫁入り前の娘に「チンしたい」と言わせないためにも、マイクロ波オーブンに最後に「チン」と鳴らせてはならない。最後に、「世界が平和でありますように」と鳴るように改善すれば、
学校から帰宅した腹ペコ坊主でも、
「母ちゃん、昨日のカレーを世界が平和でありますように願っといて」
と言える。
なんて好青年だ。とても、先程まで部室でエロ本を回し読みしていた中2には見えない。


京都の美味しい洋食屋さんは、"グルメマップ(ラーメン以外)(京都)"に載っています。