穴血

小学生の時、特に低学年か中学年のクラスで、授業中でも唐突に鼻血を出す生徒が居た。
成長するといつの間にか治るようだが、なぜだったのだろう…?
そういう体質の子供が、三十人に一人居るのが普通なのか、鼻の粘膜が弱いのか、ピーナツを食べ過ぎたのだろうか、
恐らく原因を医師団は知っていると思うが、そこの究明が今回の目的では無い。

問題は、

『鼻血が出ている者をスケベと笑うのは、なぜ?』

と、いうことである。

鼻血を出した児童は、周囲に冷やかされ、笑われ、鼻血祭りの刑に処せられ、泣く。
周囲がスケベと囃し立てなくても、鼻血が出ると、当人は気恥ずかしがる。
中々止まらない症状は、鼻にティッシュを詰め込んでいる姿が滑稽なのか、笑われる。
しかし本当は、鼻血だからと言って馬鹿にしてはならない。白血病や上顎洞癌などの重篤な状態になっている可能性も否めない。
にもかかわらず、血液が出でた場所が、”鼻の穴”ということだけで、笑われるのだ。
他の穴から血が出てきても、笑われない。
だから、実際に検証してみる。

『目』
眼底出血は笑えない。
目からの出血を見たら、瞼を切っただけと思いたい。
嫉妬と憎悪の対象を睨めつけている時に、血の涙でも流して震わせてやりたいが、努力で出るモノでも無い。

『口』
吐血を見て笑う人間は居ない。悲鳴しか聞こえてこない。
血痰の場合は、大抵が鼻血混じりの鼻水が喉に溜まったモノだが、鼻からではなく口から出れば、誰も笑わない。
歯茎からの血を見ても、別に面白くは無い。本人は歯槽膿漏に凹む。

『耳』
耳から血液が流れ出る…あまり聞いたこと無いので、不気味で笑えない。
豆腐のような固形物が混じっていれば、延髄が溶けて出てきたのではと怯える。

『肛門』
大腸癌のリスクがある。
まあ、大抵は痔である。痔を笑う者が時々居るが、侮ってはならない。排便時に便と共に肛門内部の腸物が若干飛び出す。なので、一旦ペーパーをあてがって押し込まなければならない。そうすれば、座薬が入ってゆく感覚で腸が帰る。この手順を踏まず、脱出肛門に冷水ウォッシュレットを直撃した時の痛さは計り知れない。(内痔ステージⅢクランケによる症例報告)
苦悶の体験談を聞かせてあげれば、正常な人間なら笑い止む。

『毛穴』
一つの毛穴から、血がポチポチ出てくることは有り得ない。
出るならば、ありとあらゆる毛穴から噴出し、ぶしゅしゅしゅしゅー!と響音がする。噴出液が、相手に笑うべきか否かの判断の間を与えることなく、相手の顔面に被さることとなる。
その光景は、SF映画さながらの世紀末到来であり、陰謀の影が渦巻く厚生労務局で開発された新薬が原因である。

『尿道』
膀胱癌を疑い、顔面蒼白。
性病だったとしても、常にムズ痒さムズ痛さを伴う尿意が暴れ、副交感神経が幾ら頑張っても、落ち着きや安らぎが訪れることは皆無。性病になってるのだからソイツはスケベ自業自得な筈だが、症状の悲惨さに男なら誰もが同情する。
移した女は、知らぬ存ぜぬ顔で麻布のカフェテラスにてアイスカフィの付属ストローくわえながらスマホを弄り、次なる浮気相手を探す。彼女の穴では複数タイプのクラミジア菌が繁殖し続けているが、女性側は強くて鈍いらしく、血も涙も出ないし自覚症状もない。そのカフェのテラス席はジャンクションの傍らなので、漆黒の排気ガスが充満しているが、彼女は細長のメンソール煙草を吸引しているので、大気汚染の重大さにも気付かない。
ストローの次は煙草、煙草のお次は夜に○○○をくわえる。この手のアバズレは、常にナニかをくわえてないと気が済まない。夜だけでは物足りず、朝一で○○○をくわえたがる。
「アタシは硬い朝○○○が好きなんよ」
勿論、自分がスケベエとも思っていない。
「ウフフ。アナタってヒトは、ホントにエッチなんだから」
と、この期に及んで男をエロ呼ばわりする。