湧水を発見した少女 (小2)

小2の時に下校していたら、石段の途中で同じクラスの女子がしゃがんでいた。
「何しとる?」
「これ、ワキミズなんだよ」
その女子は、石段の右端にある細長い溝をチョロチョロ流れる水を、両手で掬って飲んでいる。
「ワキミズって何?」
「あまい水」
私を含め皆が思ったと思うが、単なる水にしかみえない。しかも、石段といっても石でできたただの階段で真ん中には金属製の手すりがしっかりあり…間違えた。石段ではなくコンクリだわ。
そしてここは大自然に囲まれた場所でもない。階段の下側は一戸建てがひしめく住宅地。上は市営団地が並ぶ近代化地帯である。
「ウソこけ!」
一人の男子が叫んだ。
「ホントウだよ。ウシオさんが言ってたんだから」
どうやら、ウシオさんが言い出したらしい。
ウシオさんは当時小学5年の高学年女子。副班長を勤めていた。
来年は班長かといわれる有望役職である。
そのような女史が言うのなら、真実に違いないと。誰もが思った。

その瞬間、そこに居た皆が階段の端に駆け寄り、細かい溝に顔を近付け、こぞって飲んだ。
「一番下が一番甘いぞ!」
皆が一斉に下方を見やった。
同クラスメイトである、向こう見ずで先ず行動をする年中坊主男子が、地べたに平伏す格好で、階段の一段目の溝に直に接吻して水を無心にすすっていた。
「うそぉ!?」
皆が下へ駆け出した。
いつしか、最下層で行列が出来ていた。

「あまかったな~」
我々は存分に美味しい水を堪能し、階段を上りきると、

菅沼君が立っションしていた。

「おおスガちん! ランドセルは?」
「1回帰ってきた」
「早えなスゲエ。俺んち来る?」
「いいよ」
菅沼君がズボンを上げて着いてきた。

「ここショッパイ!」
階段の下から、まだ飲んでる奴の声が聞こえて来た。