脈アリ過ぎるメール

<件名:いっちゃん>
『いっちゃんだよーん。ベロベロベロばーー。そうです、そうです、頭に小惑星が衝突したんです。スペースシャトルがうちあげられました。
燃料はいっちゃんだよーん。
バロバロバロバーーーモノリス、モノリス、隣の客はよく学級文庫の本を読みながら柿食う客だ。
本のタイトルはいっちゃんだよーん。
ビロビロビロブーーーあっ、電話が鳴ってる鳴ってる鳴ってる鳴ってるトォーーーーー。電話の相手はいっちゃんだよーん。
図ロ図ろ図ろ下ーーー只今、えー只今、出島にとっつぁんボーヤが上陸しました。毛穴全開の模様です。ハンペンが』


以上は、私が学生の時に、とある女学生に送ったメールである。

『意味わかんない』
と、返信が来たが、女性の皆様には、是非とも知っておいてもらいたいことがある。

私は、その娘のことが好きだった。
どのくらい好きかと言えば、
「こ~んくらい!」
と、両手を広げれば腕がモゲるぐらい好きだったのである。

そして、ここが今日イチバン言いたいことであるが、
"意味不明な文章や、ついていけない世界観が前面に押し出されたメールが、貴女に来た場合、
それを送った男性は、貴女に、好意を抱いている"

「嘘でしょ」、「ウザッ!」と思われる方が、大半かもしれない。
しかし、送った当人は、貴女のことをとても真剣に思っている。

そもそも、一般的に世の男は、(この娘良いな…)という感情を、同時に複数の女に、たやすく抱く。
スーパーで買い物をしてる女性や、通り過がりの人にすら抱く。
これが、"好き"の初段階である。
ただ、この感情は、"好き"とは呼べない。性交したいだけ。
しかし、今後、"好き"に成り得る。
好きなる感情には、度合いやレベルがあり、勿論それが高くなればなるほど、それを"好き"と呼べるようになる。
では、男がそういう感情になる時とは……
ここでは、男が、好感を抱いた女に、アプローチを仕掛けるという一般的なシチュエーションを前提とする。
そして、その状況下では、その時の女の応え方によって、男が本気になって行くかが決まる。
初めの段階で、女の反応が尊敬ならば、男のプライドが満たされる。
次の段階で、女の反応が、男の価値観と合致すれば、自分が言っていることが正しいという思想の一致が満たされる。
また次、その次において、女の反応が優しければ、男は母性を感じ、この人と一緒に居たくなる。いや、離れられなくなる。
この時、男は、男の子になり、母親の代わりとして、新たな女に癒しを求める。
ただし、以上は、精神の世界のみに通ずる事象であるから、同じ空間に居ても、お互いに不快を感じないことが大前提である。

そして、冒頭のような危険なメールを送る行為は、
"貴女のことをとても信頼している"という彼なりの表現であると同時に、
例え、女性が「はぁっ??」と軽蔑したとしても、直後にしょうがないなと許してくれるのか…或いは困惑したとしても意味不明な文章の意味を一生懸命考えてそれに応えてくれるのか…を、男が確認して安心したいという意思の現れなのである。

すなわち、母性を求めるがゆえの行動なのである。

ですから世の女性の皆様、意味不明メールが来ても、目くじら立てずに、暖かく見守ってやってください。
馬鹿にしてるの?!と思われるのは、大いなる勘違いで、男性からすれば全く以って誠意を込めた愛情表現なのです。
(アタシのことをとても思ってくれているんだなコノ人は)
と、思いながら、
今一度、ちょっと走り気味なメールを読み返してあげてください。


<件名:ソムリエ>
『ばんばんでんでんずんどこずんどこガソリンスタンドに水兵隊がやってきて、見たら人っ子一人いやしねえ。おまえさん、どうしたんだいとサルティンバンコが聞くと、どうした、どうしたたいそうな月の輪熊が裁判の傍聴してるでねえか。愛車から飛び降りて反復横跳びしてたら、老舗の閑古鳥が大鳴きしてんねん。サッポロ2番のミソラーメンがすすりたいとだだこねた課長補佐代理人婦人の、こりにこった五十肩を診察した匿名希望だから許しを請うた情状酌量の余地なしぺディグリーチャムにこりゃ一本とられたね。おあとがよろしいようで』


以上のメールを、冒頭の<いっちゃん>の後に送ったが、返信無しだった。
しかし、なんと、立て続けに二度もチンプンカンプンメールを贈ったのである。
この状況下において、どのくらい受信者のことを好きかと言えば、
「こ~んくらい!」
と、両手を広げればロケットパンチのように離れて貴様をぶちかますぐらい愛していたのである。