松吉とイネ

松吉が庭に突如徘徊したネコをイネと名付けて飼育していた所イネが数十を産んだので一ヒキにつき金29圓での売却を試む。すると近隣住人から「29は高額が過ぎる」と言われたので18圓に値下げしたが級友の大河内(おおこうち)がそれでも高いと助言したが「トウ円以上値下げしたのに高いとは何言だコネコ命を甘くみるな学童期の成績が丙ばかりだったからといって痴れ者扱いか」と近くにあったナタを咄嗟に拾い上げ振り回していた所を見回りしていた巡査に取り押さえられた。留置場で松吉は「なぜマサカリを手にしたか覚えていないとにかくネコが生きるためにカネが必要だった」と喚いており、「なに故さのようなことをした。親御が悲しむぞ」と巡査が問いただすと「おっ母のイネはもう居ない。孝行してやれなかったから代わりにネコを手助けしてやってる」と言った。怪我ビトも出ていないし只今の松吉は肝が据わっていたので釈放された。
松吉は直ちに大河内邸に顔出しして「こないだはすまなかった。詫びとして一コネコを無償でサーヴィスする」と言った。「ワタシはキャットが半径三メーター内に居ると顔が痒くなるのでキャットが得意ではない。それに妻子が怯える」と大河内が応じると「では自分めが最期まで面倒を看よう。もうネコ売りも辞す」と深く頭を下げて帰宅。松吉は愛くるしいネコ達をなぜ売却しようとしたのか分からない若気の至りを猛省し全てのネコを愛でる事に決めた。
後日に目出度くネコが再び懐妊して57ヒキ(現在だと101匹に相当)と暮らすようになり我が子のように寵愛した。時折り近隣住民もネコの飼料を松吉宅の植え込みへ放り入れてくれた。呼吸器の疾病に襲われるも獣医療費を払えずに落命してしまったネコも居たが餓死寸前のネコに松吉のなけなしの米粒を与えた。大貧困にあへいだ松吉は大河内にカツオを無心しようか苦悩して吹き出物が出でたがネコが得意ではない者にネコの物を頼るのは道理では無いと言い聞かせ鼠と蛙ともぐらと蝉を自ら捕獲した。蛇に襲われたこともあったが返り討ちしてマムシ酒を密造した。蛋白質を全てネコに提供したのでネコを鍋に入れてネコ鍋を眺めながらマムシ酒を飲むのが唯一の贅沢。冬はネコの群れに身体を放り込んだので火を炊く必要が無かった。「松吉よヨメは貰わないのか」と聞かれたが「身寄りが無いが自分めは何者からも不要とされるし自分めの遺伝子もコノ世に不要なのは承知している。しかしネコからは必須人物。或いは自身を棚に上げて言わせてもらえばカカアは劣化するがネコは老いても美形を保つ。けだし美女も醜女も若女も年増も性別も関係無くネコは可愛。(※だからこそネコは人間の言葉を永遠に理解できない方が良い。言葉を分かるようになった時点でそそうしたら酷く説教されるようになるから)カカアよりもハンペン十二貫を欲っす。魚肉練りには破壊力がある。嗅いだだけで発情する」と松吉は後に言っている。ネコの掻き傷から侵入したマムシ毒に当たり松吉が横たわって絶命していたのを村人の生田目輝美が見付けた。震える字で書かれた松吉の遺書の上にイネが座っていた。

『己は真剣に犬が好きだった。しかし犬は日毎夜毎散歩が必要である。己は出不精だった。でも犬を好いている。戌年に生まれたい程度に犬が好きであった。徳川綱吉よりも犬が好きであった。特にシバイヌが好きである。己の亡骸は大分県は犬飼町柴北に埋葬してワン』



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