泣く子① (小2)

田原君は、クラスで一番背が高く、そのおかげで力もイッコ或いは二コ上並にあった。
要求すれば、廊下でタワーブリッジをしてくれて、その状態でぐるぐるスピンしてくれた、イチ小学生が回っているせいで、バランス悪く上下にも揺れるので、遊園地のコーヒーカップよりスリリングで、しかも無料。
腕力と頼りがいがある兄ちゃんという感じで、プロレスごっこで目突きをされても涙を流さない強さがあった。
ところが、実はナイーブで言葉責めにめっぽう弱く、担任からテストを返された時に「名前書くの忘れてますよ」と言われただけで、一校時じゅう声を出して泣き続けた。
また、ある時は、給食の時間に唐突に泣き出した。
「どうしたの?」
と先生が聞くと、
「ここがグニュっとなっている」
と、三角パックの牛乳(ピラミッドみたいな形)の一番上の頂点部が、尖らずにただ単に折れ曲がっていただけで、破れてもいないし穴も空いてないのに、号泣するという情緒不安定な一面もあった。
彼が泣く時は、決まって目と鼻を、右腕の前腕(手首から肘の間)の甲側で覆ったまま延々と泣き続ける。当然、口は見えるが、その歪み具合が笑っているようにも見え、
「笑ってる! 嘘泣きだーー!!」
なんて言ってしまえば、更に泣き声が増し、ちょっかい出した生徒も先生に叱られるハメになったものだ。


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