泣く子② (小2)

望月君は、運動神経抜群でサッカーがクラスイチ上手だった。
公園に集まった時に、皆が4号ボールを持って来て、
「俺のヤツ公式ボール。オマエンのは公式?」
なんて言い合ってる中、望月君がモルテンの五号ボールを持って来た。
それはそれは軟式野球ボールを見た直後にソフトボールを見た感じで驚くほどデッカイのに、望月君は使いこなしていた。顔もハンサムだった。

ところが。
国語の時間に、
「望月君、教科書にのっているAの絵は、なんという動物ですか?」
と先生に聞かれて、
「ペリカン便」
と答え、
「ペリカンですね」
と先生が直して言われただけで、望月君は席を立ち、後ろのロッカーの前に座り込んで泣き出し、しかもなかなか泣き止まないほど泣き虫だったので、女子からはあまりモテなかった。
ちなみに、ペリカン便と答えた時、先生は全く笑わなかったし、周囲も馬鹿にしていない。望月君を冷やかしたら、すぐ泣き出すことを皆が知っていたからである。

授業中、些細なことがある度に、望月君がロッカー前へ行くのは日常化し、教科書と筆記用具をキチント携えて移動するようになった。座り込むだけで、泣かないこともあった。

先生は「すぐスネる子は好かん」と相手にしなくなったが、望月君はスネキャラを求められていると自ら思っていたかもしれない。また、スネルを座り込みという反抗行為で自己表現することで、周囲の生徒達との差別化を図っていたのであろう。

一番しんどい時期は、泣けなくなった時、すなわち自分でもスネルに飽きてしまった時であろう。
しかし、周囲からスネル人こそ望月クンと位置付けされている以上、それに応えなければ、キャラが崩壊して無個性になってしまう。自然に席に戻れるタイミングは、授業が終わり、皆がどさくさする休憩時間のみなのである。



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