いつの頃だったのか、『秋の栗拾いツアー』に参加した。
まあ、人との親睦を深めましょうとボランティア団体が主催して下さった企画で、出会いを求める人々にとっては有り難いイベントである。
秋晴れの日曜日に、数十人が集った。空で雲を見れるとすれば、一筋の飛行機雲のみで、雨の不安を微塵も感じさせない。
主催者の林さんが、先頭に立ち、林道を誘導してくれた。
「では、この辺りで各自適当にお願いします」
皆が列から外れ、各々が栗を拾い始めた。
栗拾いを進めて行くうちに、なんとなくカップルができてきた。木村さんと木島さん。木田さんと八木さん。林田さんと林原さん。林戸さんと林部さん等など。
そこそこモテていたのが、木花さん。二番人気が、花林さん。一番人気が、華森さん。
しかし、ずっと一人ぼっちなのが、杉林さん。酷なことに誰もが生理的に無理らしく、彼に近付くとクシャミが止まらない。
そんな中、木下さんはカップルそっちのけで、大きな栗の木の下でせっせと没頭していた。この人は、本当に栗を多く拾いたいらしい。
森さんは、林じゃ物足りないわとどんどん奥へ進んで行く。森林さんは、落ち着きがない。林と森を行ったり来たりしている。
昼食タイムになり、皆がお弁当を広げた。
「ここでゲストタレント樹木キ林さんの登場です!」
サプライズゲストの登場に、会場が沸いた。
しかし午後、栗拾いが再開するや、事件が起きた。
木下さんの栗が、何者かに盗られたのだ。上山さんはずっと頂上に居た。山下さんはずっと麓に居たから、彼等にはアリバイがある。きっと、山賊さんがとったのよ。

突然、猪とマムシの異色カップルが威嚇してきた。
「シャーーーー!!!」としか言わないが、俺達の林を荒らしやがってと聞こえる。
すると、「林じゃなくて、森よ!」と森さんが叫ぶ。「違うわよここは山よ!」と山中さんがキレる。「そもそも私は参加して宜しかったでしょうか…?」背が低くて存在感が無かった草野さんが、初めて口を開いた。
「どうでもいいわ!」
マムシの森山ソウさんが、我慢できずに毒がたらたら垂れている早漏の牙を剥き、尻尾をバネして上手く跳ねて、林や森の姓へ襲いかかった。

「やめい!」
ある者が一喝した。
「皆が仲良くしなさい」
彼の一言で、マムシと猪の森山夫妻が大人しくなった。皆が彼にお礼を言う。
「ありがとうございます。あなたは?」
「山神です」