ナイスな戦争

戦争ほど醜い争い事はない。
しかし、大なり小なり様々な世界で戦いは必ず生じるものであるし、弱肉強食システムは人類が進化するために必要なモノでもある。
では、この悲しむべき必要悪を認めよう。しかし、せめて、人間が犠牲にならない戦争を実現しようではないか。
戦争の仕方を変え、全ての国が一つの方式に従う。それを実現すべく国際会議が開かれた。

先ず、 『国から一人の格闘家を選出して、格闘技をさせる。勝った方を勝国とする』
という提案が出された。
すると某国が、
「それは不公平だ。西洋人の方が体格が良い」と反論した。
また、ある某国は、 「外国人助っ人を可能にするか否かが難題でしょう」と問題提起し、
また、他の某国は、 「ウチハジンコウガオオイカラサンニンイジョウヲセンシュツデキナイトフコウヘイアルヨ」と過剰な要求をしてくる。

「う~む。キミも何か案はないのかね。スマートフォーンをいじってばかりじゃないか」
国連総長が私を叱責した。
何も私は、ダンマリを決め込んでいたわけではない。全体の様子を見ていて、いつ自身の意見を挟もうか、どういう言い方にしようかを考えていたのである。日本人は空気を読む。スマートフォンを触っていたのは、リアルタイムでコメント返しをしたり、いいね!ボタンを早押ししていなければ、自身がタイムラインに投稿した際に、いいね!やコメントが貰えなくなり、友達が少ないと思われたり、最悪友達から外されてしまう。
それほど、日本で友達を確保し続けることは難しいのである。たまごっちの飼育さえしていれば良い時代は遠き過去。
そういう反論をすれば、会議の方向が逸れかねないので、そこは島国根性で堪え、自身の案を述べた。

「そもそも戦争が強いということは、兵器が強いことであります。人の腕力がモノを言う戦国時代はとうに終わっています。知能と技術が優れた国が一番強くなければならない。ところが、それらの結晶をミサイルや、特に核で表現すれば、多くを犠牲にする。そこで、兵器同士を戦わせるという案を考えました。しかし、誤作動を起こせば人間を襲いかねない。ターミネーターの二の舞を繰り返しかねない。私は思った。何も凶暴化させて破壊し合いをさせなくても良いのではと。そこでロボットが、例えば”赤い輪の中にボールを何個運べるか”などのコンテストで、優劣を決めましょう」

目を閉じて聞いていた総長が、目を開いた。

「よかろう。しかし1つ間違いがある。”ターミネーターの二の舞を繰り返しかねない”発言は誤りだ。”二の舞”とは、”失敗を繰り返す”という意味であるので、”二の舞を繰り返す”とは言わない。正しくは、”二の舞を演ずる”だよ」

「御言葉ですが総長。”失敗を繰り返すを繰り返す”でも、”繰り返すことを繰り返す”という意味なので、別におかしくはないのではないでしょうか? ターミネーターは五作続いています。人間VSロボットを五度も繰り返している。繰り返しの強調という意味を込めての使用ですけど」

翌日、総長が、私を友達から外した。せめて、私から外しておけば良かったと後悔した。


私は本国へ戻ると、首相官邸を訪ね、国連での新戦争法の合議結果を告げた。
首相が即座に受話器を取り、防衛大臣に繋いだ。
「大至急、全国の高専に号令」