制定

私が独裁者だった頃、兎に角ピンフな我が国にしたいと思い、無数の法律を制定した。

特に犯罪を減らすべく、刑法を強化した。
とはいえ、殺人や強盗などの重犯罪の刑罰を重くするということは、していない。
ただし、軽犯罪として処罰する範囲を拡げた。

例えば、
『自身がインフルエンザであることを知りながら、第三者のパアソナルゾーンに不当に侵入して感染を拡大した者は、三日以下の禁固に処ス』

や、
『自身がインフルエンザに感染していることを知り、又は知っていながら、公共の場もしくは場面に於いて、クシャミ或いは咳を、我が手で我が口を覆うこと無く実行して、細菌を故意に飛散させた者は、善意悪意を問はず七日以下の禁固に処ス』

更に、
『前項に当て嵌まる者が我が手で我が口を覆っていた場合につき其の手を直後に洗浄せず其の手で第三者や公共物に接触した者は千円以下の罰金とス』

加えて、
『前項に当て嵌まる者が我が手で我が口を覆っていた場合につき其の手を直後に洗浄せず其の手で第三者の下の口に双方の合意無く接触する行為は不当なオ触ワリと見做し其の者を6月以上10年以下の懲役に処ス』
など。

以上だけだと生ぬるいので、一年後には、インフルエンザだけでなく単なる風邪の場合も処罰の対象とした。

他に、『会議で書類を忘れる行為』、『発言を要求された際に挙手して指名されたにもかかわらず「忘れました」と文言する行為』、『厳守されたおやつ代から捻出せずして購入したバーナーナを携える又は水筒の中身をポカリにする行為』なども、国家による処罰の対象とした。
結果として、軽犯罪の検挙数が大幅にアップしてしまった。前科十三犯の童子などザラである。

しかし、これこそが私の狙いである。
人間には本来、社会に反抗する本能、規則を破る本能、優等生をさしおき悪ぶる本能など、粗悪願望が備わっている。これらは、攻撃本能から発せられていると見受けられる。
すなわち、軽犯罪を起こして検挙されることで、自身が他者や規律を攻撃したことが社会的に認められたと認識出来、自己の攻撃欲求が満たされる。微々たる犯罪を犯すごとに攻撃ストレスが解消されるので、攻撃ストレスが溜まることはない。
また、複数の懲役を科された人間は、ハクが付いたと思い込み、犯罪欲求が満たされ、大罪を犯さなくなる。
結果として、国民の99.9%が前科者となった。
この者達は安心だ。今後も再犯を重ねるが、微々たる犯罪に落ち着くだろう。

寧ろ、残り0.1%の前科ゼロ者が問題である。
品行方正で他者の悪口も言わない人間は、怒れた際に何を仕出かすか予想できずなので油断ならない。
ゼロであることを誇りとしていたり、ゼロであることを個性と勘違いしたり、このようなゼロマニアは、一犯でも付けばエリート挫折効果と同じく、一も百も同じじゃと暴走しかねない。
彼らは悪行を我慢しているので、攻撃ホルモンが肥大化蓄積している可能性があるので、国家転覆も起こしかねない。
クーデタを起こした彼らが私のコメカミにライフルを突き付け「ゼロじゃダメなんでしょうか?」と文言する悪夢をよく見る。
なので、零犯には保護観察処分を付し、秘密警察にマークさせることにした。

蛙を水風呂に浸けて温度をゆっくり上昇させると湯で上がるが、熱湯風呂に落とした上島は飛び跳ねるのである。