子供ができてん②

【※子供ができてん①からお読みください】


「立派なモノこさえて来たねえ」
 医者が、ニヤニヤしながら言った。

「フンリュウっていう病気ですよね。その中に菌が入って腫れた症状だと思います」
「よく知ってるねえ」
「ネットで調べました。難しい字ですよね。粉瘤」
「そだね」
「書くことはできません」
「ははは」
「病名と症状は自分の力で知ったので、診察代を負けてくれませんか?」
「そういったことはできないね」
「治りますかね?」
「多分ね。百パーセントとは断言できないけど」
「どのくらいで治ります?」
「分かんない。言った期間で治らなかった場合にイチャモンつけられたらかなわんから」


私は診察台に仰向けに寝かされた。
先程の医師の妻らしきオバちゃんが来た。夫婦で開業している模様。
「ドウシテこんなになるまで放っといたの」
「放っといて、こうなったから来たんデス」

真上から強い光を浴びせられた。
私はこのシチュエーションに滅法弱い。だって、絶対笑ったらダメな時じゃないですか。そんな時に限って、架空のブスが脳裏に浮かぶ。そして架空ブスが白目をむいてニタリとするのだ。

「自然治癒で治るんだったら、何もしない方がいいんですけど」
私は早く逃げ出したかった。既に口と左ほっぺの間がプルプル震え出していた。白目でしかも坊主頭の君が「誰が短髪じゃあ!」ってキレながら追いかけてくるんだ。
「その病気を大事にして付き合っていくんならいいよ。とっちゃいましょう」
太いピンセットのようなモノでオヤジが挟み潰してきた。
「ギイアッ!!!」
ブスガス爆発。ブス消えた。

幾本へも枝分かれしている薔薇の枝が顎からうなじ目掛けて走った。
顔面が潰れたかのような激痛。私はクシャおじさんになっていた。そりゃ、痛いよ。肉の中に金属入れてほじくりまわしてるんだもの。

ぽっかり空いた穴の中を消毒液で洗った後は、ガーゼを詰め込むんだって。
細長いガーゼ、これまた消毒液がしたたる黄色いガーゼを折り畳みながら、ギュッ、ギュウッっと押し込んで行くドクタア。そのピンセットの先端が、直接脳の痛覚を突ついているようで、ギャッ、ギャーテ、ギャーテと阿鼻叫喚。
最期の一押しによって、後頭部を貫かれた。
ハラソーギャーテ

「はい大丈夫。男の子なんだから悲鳴あげなーい」
顎先に、四角いガーゼが被せられ、ガムテ大の白いテープを十字に貼られた。
「明日から毎日来て下さい。ガーゼを取り換えますんで」
って、鏡を見るともう血が滲み出て1番上のテープにまで浸透してる。
「せんせえー、もう取れかけてますけど」
直ちに張り替えてもらった。


翌日、病院へ行く前に頭を洗うと、大きいガーゼがテープごと取れ、凝固した血と共に皮膚が剥がされジリジリした。
顎からチョロっと赤茶の布が出ている。血で染まったガーゼの先端である。病院へ行くと、これを引っこ抜かれ、新しい細長ガーゼを詰め込まれた。痛が顎を出発して後頭部を貫通する阿鼻叫喚の連日七日間戦争で、ようやく腫れ引いた。





子供ができてん③へ行く】