ブリブリ

ある日、友人N男が女友達2人を呼び2対2で新宿で飲み会をしてカラオケへ行くという定番の宴の後、一同は落合にあるN男のワンルームアパートへ。
まったり飲みながら談笑していたら僅かな便意がきた。テーブルの上にはツマミがあり、煙草の煙もあるし窓も開いているからバレないだろと思い、とりあえず少量の屁をした。N男が唐突にゲラゲラ笑い出して「このピーナツスゲーくせえ」と。ムムー、粒子しか囁いていないのに相当臭うんか。なんか嫌な予感がした。
案の定、数十分後に猛烈な便意襲来でこりゃウンコするしかないなと思い、たくさん飲んだから一回ぐらい良いだろと思いながら便座に座った。そして肛門括約筋の力を抜くと、
「ブリブリー」
と(汗)、あわてて括約筋を閉めるももう遅し。水分と空気をメイ一杯含んでいる輩が出てしまった。トイレのドアを開けたらそこはすぐ6畳1間の狭所。部屋との仕切りのドアは無く換気扇もついていないトイレで奏でられる音は家に居てる人々にマル聞こえなのだ。私は水を流す音でかき消すことにした。「ジャーーーーー、ブリブリブリ!」
まずい、屁の音があまりにもデカ過ぎる。しかも水の音と屁の音をうまく合唱させることができない。屁の方が長引く。そして今回の便種を理解した私は青ざめた。キューっと便意がくるも、屁しか出ない下痢である。しかもその時糞は少量しか出ず一部始終が終わると、次の波が繰り返しやってきて徐々に体力を奪われていく。これ、独り家に居る時は長時間便器に密着していれば済むだけの現象なのだが、今は状況がマズすぎる。便座に座っているのに我慢しなければならないのだ。
そして、第2の波が…幾人ものサーファー達が命を落としている大波に絶えながら、括約筋のバランスを計る。
「ジャーーーーー、ブリブリ、ジャーーーーー、ブリブリッ、ジャ…」
ウッ、もう水がでない!
「ブリブリブリブリリアント!!」
強烈な爆音が響いた。しかも少量の液状化現象した固体が飛び散るだけで苦しさは治まらない。
クソ-、神様はなんで屁をこんなに下品な音に設定したのだ。どうせならもっと耳に優しい音にしてくれれば良かったのに。こんなにも文明が進歩しているのに屁の音は今も昔も同じだ。着うたをダウンロードできたらなぁ。尻から椎名林檎が聞こえたら誰も笑わないだろう。
こんなに恥部をさらけだすのは初めてだ。涙が出てきた。
数十回の波を越えた丘サーファーは貧相な顔つきで家族のもとに帰った。「メッチャ腹痛い」と苦笑したが皆クスクス笑ってる。バレバレやん。
そして1時間後、再び波がくる。幸いにも3人は川の字になって寝ている。
しめしめと思いながら、力を抜いた…
想像してもらいたい。綺麗な女性がトイレに入った後に強烈な音を鳴り響かせるという志村けんのコントを。その音で寝ている人間が目覚めないはずがない。ヒソヒソと下界の声が聞こえてきた。これぞ生き地獄。目の前のカレンダーでは"今年もいい年になりますように"のメッセージと恵比寿さん達の笑顔。その笑顔が恐喝しているように見えて恐怖。犬まで笑ってるし。笑うはずのない動物までも。
ええーい、1回してしまえば2度3度も同じだとひらきなおって音を出す。“もう水は流さない” 今の私にマッチしたタイトルだ。
人間不思議なもので窮地に陥れば笑えてくるもの。私は私の下半身に対して爆笑した。こいつと私とは違うんだと言い聞かせる。こんな状態が続いて多重人格者になるんだろうな。でも2人目の人間がブリブリなんて嫌だ。こんな下半身人格とても精神科医に見せられやしない。
「テメエ後でしわいじゃーけんなー」と下腹部を睨む。
便所から限りなく0に近い距離の台所でN男とY子が煙草を吸ってるようだ。気のせいか真実か「スゴイ臭い」というY子の声が聞こえてきた。
「もうダメだー」と外に聞こえるように自分にツッコミながら笑った。なんとも涙ぐましい崇高な行為よ。
どのような顔をして出よう。もはやドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』の恋ダンスを踊りながら逃げるしかない。オサレにもまあ黒いトイレットペーパーをセッティングしやがって。黒いトイレットペーパーが巷で人気を呼んでるだあ?フンッ鼻でちゃんちゃら笑っちゃうね。吹き切れたか確認し辛いわっ!
トイレから出た私は「もう耐えられましぇ~ん」と武田鉄矢の口調を連発しながら泣く泣く屋外へ逃げた。
外は既に明るく爽やかな早朝で、雀のさえずりが聞こえる。
道中のガストにてトイレを拝借し、最後通告と共に行ったおよそ数十分にわたる下痢ら空爆によって戦は終結した
[下落合 13日 ロイター]



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