タイミング良くハマり過ぎ

水泳の授業で、最後の30分に自由時間が与えられたので、鈴木君とじゃれあっていた。
彼がこちらへ放った水渋きが、顔目掛けて来たので、顔面を90度回転させて真横を向いた瞬間、「ブピョ!」っとした怪音。
その後は、一歩足踏むごとにブワワワーン、ブワワワーンと違和感ありきの振動が、耳鼻内で持続して不快。
ほんの小さな水の塊が上手い具合に耳穴にはまった。
直ちに当異物を排出しなければ中耳炎になってしまう。鼓膜が破れて一生耳が聞こえなくなるかもしらんと焦った。
直ちにプールサイドへ上がり、片耳穴を地球の中心へ向け、片足で跳ねた。ケンケン跳んでいる筈なのに、ゲンゲンと聞こえる。 重力よオラに力を貸してくれ。
複雑に巻き込んでいるカタツムリ官から引っ張り出してくれ。
アチチ!
プールサイドのタイルの黒い部分が、日光を吸収していたので頗る熱い。薄い色のタイルへ移動して跳ね続けたわけで…
「なにしとる?」 上がってきた鈴木が、飄々とした顔つきで聞いてきた。そのキョトンとした顔を見、
「おまえのせいだでーーー!!」
私は両手の十指をこれでもかというぐらい拡げて飛び掛かった。
「は?」
鈴木は不思議な顔したが、とりあえず両腕を伸ばし、私の顔を鷲掴みしてきた。
不意に、小雨が降ってきた。今しがたまで直射日光が射て付いていたというのに、この変わり様。
私の三半規管内で引き込もって鬱屈しちまった水滴に変わり、充分過ぎる程の雨が降り注いできた。
これが、小2の六月の出来事だった。


小4の冬、雪が積もった。
そんな日の下校時は、決まって雪合戦が始まる。道中、雪玉を投げ合う戰をしながら、家路へ向かうのだ。
不意に横顔に強い打撃を受け、目の中で赤い閃光が走った。
いたいいたいいたいいたいいたい
顔の左側がいたい。下手に動くと痛過ぎるので、手をくねらせたまま其の場でフリーズ。
「ごめんね」
一人の女子が謝罪してきた。悪気が無くとも、こういう酷い状態を招くのは大体が女だ。
どうやら、雪の塊が、耳の形と相性良くカッチリはまっているらしい。
凍てつく固形物が、空気が逃げるスキマも与えずブロックするってあるんですね…
寒い冷たいじゃなくて兎に角痛い。微動だにできない状況下で、斜め上方向へ目の玉を動かすことしかできなかった。
この体勢のまま、塊がじわりじわりと溶けるのをじっくり待つしかないのか。
それにもかかわらず、皆様これでもかというぐらい雪を投げてくる。胸、腹、背中、股間。
押さえていると、
「大丈夫か」
と鈴木君が近寄ってきてくれた。そして、問題の耳にそっと手を当ててきた。
雪を隠し持った悪い手を。
固める以前の盛り雪を患部に擦り込み、鈴木は逃げた。
私が怒りを伝える間すら与えずに、去ってしまった。
「ワア~~~~~イ!」
今や、楽しげな声達は、前方遥か遠くへ行ってしまった。謝罪した女子も何処かへ行った。鈴木はもう家へ帰ってるんでねえか。
テメエ等!
あん時の俺は立派なペイシェントであり、保護されるべき人物。一方アンタ達は保護する責任がある側。
俺がフリーズしたまま体温奪われて当場で凍死してたら、保護責任者遺棄致死罪で訴えてやる所だ。鈴木は殺人罪。
そして、これねえ。
耳に雪が入った人物が、例えばクラスの人気者だった場合だと、皆が駆け寄り、雪合戦は中断。そして、「大丈夫?、大丈夫?」と皆が皆で親身になって介抱している内に、ボスのテンションも下がってきたことですしと、中止になるんだよね。
具合が悪い時の周囲の対応で、自身の身分が分かる。


真冬に外で立ち小便してはならない。
尿が湯気化して立ち昇る。
それは顔までも到達し、吸引したが最期。


以上。水分が人を襲った事例を液体、固体、気体に分けて報告しました。