児童の強み

大の便意が強くなるほど、顔じゅうの血液が引いてゆき、しかし顔は青いのに発汗過多、口数は少なくなる。間もなく、少し触れられるのも嫌という乙女な状態となり、終には、話し掛けてきただけの相手に殺意を抱くようになる。
小4の授業中に便意襲来したのは、「残りの十分は自習時間にします」と、担任が言われた時だった。
便意段階はステージ4。私に関わってきた者なら、ハトすら絞首する末期の症状である。
「あんなあ?」
隣り席の島田さんが話し掛けてきた。
「うるせえ」
机の角から目を離さず発言した私に、島田さんが舌打ちした。そして、島田さんが席を立ち、担任が座る教卓へ行った。
聞きたいことはハナから先公に聞きやがれバーロー。それどころではない。私は背骨と首を更に屈曲させて、自身のヘソに視線を定めた。
目を閉じて精神を統一していると、後ろから頭を刺された。
振り向くと、目を三角にした担任が、拳を握りしめたまま見下ろしていた。
拳の形状は、中指の第二間接部のみを突き出したタイプ。渾身のパワーを最小の面積に蓄積させてから、そのパワーの全てを対象物へ移動させる方式なので、瘤が出来るやつ。

島田の野郎チクったな。
人から話し掛けられた場合、私が平常時ならば普通に応対する。
平常かつ機嫌が悪い時であれば「うるせえブス」と言う。この生徒が本来なら一番悪であり、鉄拳を食らうのも頷ける。
ところが今回は緊急事態発生中。多少の問題行動も考慮されるべき事態である。
しかも今回は、「ウルセエ」としか発言していない。ブスとは日頃から思っていたが、今回はそのワードを言ってなかった。明確にブスと口に出していないので、意思表示として認められない。
そういう事情も知らずに、背後から急襲するとは不本意な。不条理を孕む教師の逆鱗と、身体を蝕む便意の狭間で、倒産寸前の中間管理職のごとく脂汗が滲み出で、卒倒寸前なのであった。

ただ一つだけ完治する方法があります。

便を放出するのです。

天の声が、私を救済しようとする。
今ここで漏らせば、教師の怒りを沈めるどころか罪悪感を植え付けることもでき得る。しかし漏らせば、残りの小学人生は惨めなものとなり、同クラスメートがそのまま行く中学でも永久(とわ)に語り継がれることとなる。
だから、漏らさないを選択した。
心拍数を上げて、手足の末端が痺れるのを覚悟して、全血液を肛門周囲へ送り込み、一点の強化に努めた。薄れゆく意識の中、女担任の説教が夢心地に響く。
担任が去り、授業が終わるや、閉門を維持しつつ廊下を猛早歩き。誰も居ないのを見計らって女子便へ飛び込み噴射!
(男子便ですると、クソしてらあと上から覗かれる為。しばらくウンコマンと呼ばれる為)
そしてそこで待機。
次なる授業開始のチャイムが鳴り始め、便所内の人の気配が消えたのを確信するや、速やかに女子便から脱出して通路を猛ダッシュ。教室前で通常歩きに変え、チャイムが鳴り止む前に、何事も無かったように着席。
一つの動作でもしくじれば、このクニに居続けることはできなかったであろう。

ミッションが成功したのは、肪物並びにアルコール多量接種から生じる軟便が鉄砲水のごとく押し寄せる大人ではなく、バランスの摂れた固形物が亀がゆっくり頭を出すように進行する児童だったからである。
また、何らかのプレイが原因で肛門括約筋が麻痺している大人達と違い、まだ開発されてないので締まりの良い優良児童だったおかげなのである。


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