銀光員 (小3)

理科にて光を学んだからなのか、反射という自然現象を身体で知覚したからなのか忘れたが、晴れた日の授業中に、太陽の光を文房具で反射させる遊びが、小3の時に流行った。
定規、コンパス、カンペン、画鋲、シャーペンの胸ポケットに引っ掛ける部分などで光を反射させ、天井や壁を照らす。
道具をびゅんびゅん揺らすと、光がアッという間に瞬間移動してワクワク興奮した。 特に、カンペンを利用する者が多数だった。ボディ全体が缶素材なので、反射させ易い。
余談だが、筆箱を使用している者は少数になっていた。筆箱は、カンペンよりも大きな長方形であり、マグネットで開閉する蓋は、F1レーシングカー等の写真入りビニルで覆われていた。蓋が2つ付いているものもあり、小さい蓋を開けると消ゴム入れ専用、大きい蓋の方は鉛筆その他入れになっていた。鉛筆達を起こすことも可能で、発射前のミサイルのごとく斜め天を向く。どこかにホチキスも搭載され多機能だったが、多数が低学年で卒業した。

授業中、不意に左目に刺激を感ずる。
左を向けば、窓際の曲者がカンペンで反射させた光で私を射ていた。眩い世界の中で不敵な笑みを浮かべているのが見てとれた。すかさず私はカンペンを盾にしてその曲者を射る。
どうだ自ら放った光線で反撃される気持ちは。マホカンタ
険しい表情をし続ける曲者。彼は、自身のカンペンを置けば、光が消滅することをまだ知らない。
うっ!
曲者の後ろの曲者も、攻撃してきた。卑怯者らめ。私は右手で机上を手探りして三角定規を掴んだ。初の二刀流だ。三角定規は小さく歪な形をしているので上級者向けである。
つい誤射してしまい、隣りの民間人を射てしまった。しかし、其の民間女子はメデューサだった。普通男子より巨躯なるカノジョの射るような視線に石となる。
私は三角定規を緊急大幅方向転換させ、斜め右に位置している、好意を持っていた民間女子を狙った。キッと睨めつける怒顔はチャアミングで、思わず自顔が相好を崩してゆく。
黒板の板書を書き終えた先生が振り向き、全戦士は一斉に武器を手放し、正面を向き背筋をピンと伸ばす。
授業が終わると、メデューサ・ドスコイが腿裏を蹴ってきた。

昨日の敵は今日の友。
翌日は、曲者と私が同盟を結び、曲者が送信した光線を私が反射して様々な民間人を狙った。民間人の中には、私の光線を反射し、更なる第三者を射抜く”つはもの”が居た。
教師が振り向いても、体勢を低めて教科書を盾にしつつ顔面と武器を隠しながら戦う術も覚えた。再び教師が黒板にチョークを走らせる。
我々に背を向けるとは愚かな。
私は教師の臀部にスポットを当てた。徐々に上へ移動させ、遂には、初老の白髪の不毛地帯を照らすことに成功した。

翌昼、席替えにより部隊の配置が変わった。私は縦四横二で好陣。ほぼ窓際だ。
私は明日のことを考えると高笑いが止まらなくなった。
翌日は雨天だった。
翌翌日、授業中に戦さが開始すると、私はランドナップから細長い1本の筒を、ダイナマイト感覚で取り出した。
それは、薄い銀素材が幾重にも巻かれたモノ。

アルミホイールだ。

ザッと引っ張り、机上へ伸ばした。
「ちょっと、しまいなよ」
隣の民間女子がひいた。私もひいた。
とてつもない兵器を持ってきてしまった。
光が線じゃない。光線ではなく光柱。天井には広大な光の群。幾億光年の小宇宙を創ってしまった。
怒濤のごとき冷汗で背がびしょびしょになる。
一人に照準が合わせられない。一気に複数が爆死。イオナズン。
中学年に使いこなせるはずがない。連携行動なんて取れる筈がない。味方までも戸惑いの表情を見せている。
フォースが操れず、クッキングシルバーペーパーが暴走した。パルプンテ
猛烈で非常に大きな稲光・閃光が教師の背後を直撃。ベギラゴン或いはメラゾーマ否ギガデイン。
黒板へ、板書する教師の濃い影が映る。至近距離で自身の分身に気付いた教師が素早く武闘家のごとく振り向く。
私は逃げ出したい。しかし、まわりこまれてしまった。

かくして、教師に発覚したことにより、リフレクションバトルは幕を閉じた。原因を作った私が、一つの遊戯を奪われたクラスメート衆から責められた時に詠んだうた。

光り無き 非難の嵐 浴びて泣き
(詠み人知らず)